2011年日本ゲノム微生物学会研究奨励賞の選考理由について
阿部 貴志氏(長浜バイオ大学)についての選考理由
阿部氏はもともとの出身である電子情報工学分野の専門を生かし、ゲノムのもつ情報を解析するために、「自己組織化マップ(SOM)」の手法を取り入れ、それを広範囲の生物種のゲノムを俯瞰的に理解するための方法として拡張し、一括学習型SOM(BLSOM)としてまとめて公表している。ゲノム解析のスピードが今後ますます上昇し、それによって公表されるゲノムデータの増大が見込まれ、それに対処するためにバイオインフォーマティクス分野の一層の発展が望まれる現在、同氏のように電子情報工学分野の出身者の生物学分野での活躍は今後一層重要になると考えられる。その意味で同氏の開発したBLSOMの更なる改良による高機能化が望まれる。
なお推薦者によれば、BLSOMは現在微生物ゲノム解析の分野で世界的に評価されつつある�ということであり、その意味でBLSOMはこの分野での日本発の研究方法の開発として評価できる。同氏は大学院時代の2003年からこれまで、本奨励賞の申請に関わる業績を全9報の論文(そのすべてで筆頭著者)として報告しており、これらの同氏の業績については各委員が異口同音に高く評価している。さらに選考委員会としては、今回の応募申請には記載されていない論文が他に33報あるという同氏の研究活動の活発さを考慮し、同氏の今後の研究の発展はゲノム微生物学会の若手の育成にも大いに貢献するものであると考える。
以上のことから本委員会は、阿部氏がこれまで携わってきた研究分野ならびに上述したような同氏の研究の進め方は、ゲノム微生物学会奨励賞の趣旨にもよく合致するものであると判断する。また同氏は、学問的にはすでに独立したキャリアの確立に踏み出しており、今後の研究の発展が期待される。これらの理由から本委員会は、全員一致で阿部貴志氏を本年度のゲノム微生物学会奨励賞候補として推薦するものである。
岩崎 秀雄 氏 (早稲田大学) についての選考理由
岩崎氏は大学院生時代からシアノバクテリアを研究材料として選び、その概日リズムの解析のための実験系を立ち上げてきており、その過程で体内時計に関わる遺伝子としてkaiABCと名付けられた遺伝子群を同定し、これらについて分子生物学的・生化学的研究を発展させてきた。この大学院および引き続くポストドク時代の研究はきわめてIFの高い雑誌に、同氏を筆頭著者とする3報の論文として発表されており、同氏のその後の研究の基礎を築いたものである。
同氏はその後、kaiABCおよび関連する遺伝子について他機関の研究者との幅広い共同研究を重ね、その過程で概日リズムに関連する遺伝子の発現について、kaiC遺伝子のコードするKaiCタンパク質のリン酸化が転写・翻訳を完全に停止させた細胞においても持続することを発見し、それまで長い間考えられていた生物時計遺伝子についての「転写翻訳フィードバックによる発振モデル」説を覆す成果として発表している。さらに同氏は、上記の論文のほか、本奨励賞のテーマに関連する7報の論文をいずれもIFの高い雑誌に発表しており、また6報の英文による総説を発表するなど、その研究業績は顕著であり、同氏が今後ゲノム微生物学分野での人材育成に活躍してくれることが大いに期待できる。
これらの理由から本委員会は、全委員が一致して岩崎秀雄氏を本年度のゲノム微生物学会奨励賞候補として推薦することを決定した。
[ 11.10.06 ]
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